韓国、公務員をAIの「使い手」から「作り手」へ 人事評価と開発支援で進める行政改革、日本への示唆は

韓国、公務員をAIの「使い手」から「作り手」へ 人事評価と開発支援で進める行政改革、日本への示唆は

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現場の困りごとを、職員自身がソフトに変える

行政の仕事に人工知能(AI)をどう取り入れるか。文書の下書きや情報検索に使うだけでなく、仕事を知る公務員自身が、必要な業務ツールを作る。その取り組みを人事や組織運営の面から後押ししようと、韓国政府が支援の拡充に動いている。焦点は高性能なAIを導入することから、現場の工夫を継続的な業務改善につなげる仕組みへと移りつつある。

韓国の行政安全部は8日、AIを使って業務ツールを直接開発する公務員への支援拡大策を、国務会議に報告した。国務会議は日本の閣議に相当する政府の会議。行政安全部は行政運営や政府改革、地方自治、防災などを担い、日本の総務省に近い役割も持つが、所掌がそのまま一致するわけではない。

今回の政策の中心にあるのは、開発に参加する人の裾野を広げるという発想だ。業務担当者がAIによるプログラミング支援ツールや公開データを使い、自分の仕事に必要な試作品を作れるようにする。用意されたシステムを使うだけでなく、日々の不便を見つけ、解決策の形まで現場で示そうという取り組みである。

ただし、公務員が作ったプログラムを、そのまま住民向けサービスに投入するという話ではない。試作を自由に行う段階と、安全性を確認して実務で運用する段階を分けることが、方針の重要な柱になっている。現場の創意を引き出しながら、公共サービスに必要な責任を組織がどう引き受けるか。日本の行政デジタル化を考えるうえでも、見逃せない論点だ。

「欲しい機能」を説明する人が、試作品も作る

業務システムの改善では、仕事の中身を理解している人と、プログラムを作れる人の間で、要望を正確に伝える必要がある。小さな不便であっても、それを仕様にまとめ、開発する側と調整しなければならない。韓国の方針は、この過程の一部に業務担当者自身が踏み込むことを支援するものだ。

AIコーディングツールは、実現したい処理を言葉で指示するなどして、プログラムの作成を助ける技術である。専門の開発者でなくても試作に取り組みやすくなる一方、生成されたコードが正しく、安全に動くことまで自動的に保証されるわけではない。「作り始めるハードルが下がること」と「実務で安心して使えること」は、別の問題として考える必要がある。

開発の材料には、公開データと公共APIも含まれる。APIとは、異なるシステムの間でデータや機能をやり取りするための接続口のようなものだ。必要な情報を別のシステムから取り込めれば、同じ内容を何度も入力するような手間を減らせる可能性がある。ただし、これは技術の一般的な用途であり、今回の発表が具体的な削減効果を確認したという意味ではない。

日本の職場に引き寄せれば、担当者が表計算ソフトの関数やマクロを工夫して、集計や確認の手間を減らす取り組みに近い側面がある。違いは、AIの支援でより幅広い処理の試作を目指すことと、その活動を個人の工夫にとどめず、政府として評価、共有、管理しようとしている点だ。

報奨金と昇進審査、技術導入を人事につなぐ

行政安全部によると、AIを使った行政改革の成果に対し、特別成果報奨金や研修・学習支援などのインセンティブを拡充する。単にAIを使うよう呼びかけるのではなく、学ぶ時間や改善の成果を組織として評価する方向を打ち出した。

人事面では、5級への早期昇進制度のうち、先端科学技術人材分野の成果審査で、AIに高度な技能を持つ職員に加点する。韓国の公務員制度における「5級」は職級を示す区分であり、日本の官職や役職と一対一で対応するものではない。ここで重要なのは等級そのものよりも、一定の昇進審査にAIの技能を反映させるという設計だ。

もっとも、「AIを使えば昇進できる」と受け止めるのは正確ではない。公表されたのは、特定分野の成果審査で加点する方針であり、利用経験だけで昇進を保証する制度ではない。評価の対象となる技能や成果を、実際の審査でどう見極めるかが今後の運用上の焦点になる。

政府改革に関する各省庁の評価でも、AI転換の評価分野を広げる計画だ。職員個人に開発を勧めるだけでなく、その職員が所属する組織にも支援を促す。現場の担当者が試作品を作っても、上司が意義を理解せず、利用に向けた調整も進まなければ、取り組みは個人の実験で終わってしまうためだ。

個人の表彰と組織の評価を組み合わせる点に、今回の政策の特徴がある。ただ、評価の仕組み次第では、目立つ新規開発に関心が集まり、保守や他部署への説明が後回しになるおそれもある。これは発表で確認された問題ではなく、制度を運用する際に注意すべき論点だ。作った数だけでなく、使い続けられる状態に整えた仕事も評価できるかが重要になる。

2073人が参加、公開376件は「導入実績」ではない

取り組みの基盤となるのが、業務担当の公務員が試作品を開発する「AI政府実験室」だ。発表で示された同月3日時点の参加者は2073人、登録課題は770件。このうち376件が、他の公務員も活用できるよう公開されている。

登録課題の半数近くが共有可能な形になっていることは、開発を個人や一つの部署の中だけで終わらせないための出発点といえる。同じような仕事上の課題があれば、別の職員が既存の試作品を参考にできる。最初からすべてを作り直すのではなく、他の担当者の工夫や開発経験を取り入れる余地が生まれる。

一方、この数字には明確な限界がある。公開された376件が、実際の行政サービスに導入された件数を意味するわけではない。770件という登録数も、完成した製品の数ではない。現段階で確認できるのは、開発への参加と、課題・成果物の共有がどの程度進んでいるかという状況だ。

提供された発表内容には、全課題の実務への適用率や、業務時間の削減効果は示されていない。このため、参加者が増えたことをもって、窓口での待ち時間が短くなった、行政コストが下がった、と結論づけることはできない。政策の広がりと、国民が実感できる効果は、分けて見る必要がある。

共有にも、単にファイルを公開する以上の作業が伴う。別の部署で使うには、何の業務を対象とし、どのデータを必要とし、どこまで動作を確認したかが分からなければならない。課題の件数に続いて注目したいのは、他の職員が理解し、検証し、自分の業務に適用できる形へと整備されるかどうかだ。

現場の壁は、利用料、セキュリティー、データ接続

制度上の評価だけで、開発が進むわけではない。実験室の参加者244人を対象とした調査では、開発環境やサブスクリプション料金の不足を挙げた割合が68%だった。セキュリティー指針を適用する難しさは59%、データ連携の難しさは40%に上った。

この調査は参加者の一部を対象としたものであり、韓国の公務員全体の状況を示す統計として扱うことはできない。それでも、実際に開発へ取り組む人が、どこでつまずいているかを考える手掛かりにはなる。AIへの関心や学習意欲があっても、使える環境と費用が確保されなければ、継続的な試作は難しい。

セキュリティー指針の適用に難しさを感じるという回答も、単純に「規制を減らせばよい」と読めるものではない。行政は個人情報など慎重な管理を要する情報を扱う。必要なのは、安全上の要請を保ちつつ、どの環境で、どのデータを、どのように使えるのかを現場が判断しやすくすることだ。

データ連携の問題は、試作品と実用品の違いを端的に示している。手元の仮のデータで動くプログラムを作れても、実務で必要な情報に正当な権限で接続できなければ、利用範囲は限られる。データの形式や更新方法が異なれば、その調整も要る。プログラムを書く作業が容易になっても、行政情報を適切に扱うための仕事は残る。

今回の調査から読み取れるのは、報奨金や研修だけでなく、開発環境、利用ルール、データの接続条件を一緒に整える必要性である。ただし、示された支援方針によって、参加者が挙げた費用や環境の不足がすべて解消されるとまでは確認できない。今後は、支援の内容が現場の障害にどこまで対応するかを見る必要がある。

試す自由と、行政としての責任を分ける

尹昊重(ユン・ホジュン)行政安全部長官は、公務員が自由に実験できるよう支援する一方、実際の適用段階では、組織がセキュリティー、品質、運用に責任を持つ考えを示した。検証された成果は、各機関が共同で使えるようにする方針も掲げている。

この責任の分け方は、現場主導の開発を続けるうえで重要だ。作った本人に、業務改善の提案から不具合対応、セキュリティー確認、長期の保守まで任せれば、負担が集中する。異動によって担当を離れた後、仕組みが分かる人がいなくなる事態も避けなければならない。個人の能力に依存した便利な道具を、組織で維持できる業務基盤に変える必要がある。

また、試作品が一度正しく動いたことと、継続して安全に使えることは同じではない。入力するデータや業務の条件が変われば、不具合が表面化する可能性がある。外部のAPIに依存する場合には、その仕様変更などへの対応も必要になる。AIによって開発の入口が広がるほど、導入後の管理の重要性はむしろ増す。

行政安全部は、発表でいう今年下半期に、公務員によるAIを活用した直接開発と、成果物の管理に関する指針の制定を進める。ソフトウエアの脆弱性や個人情報保護などについて、安全点検の基準も整える計画だ。これは、今回の取り組みで情報漏えいや事故が起きたという発表ではなく、業務利用に向けた管理体制を準備するものだ。

実験を広く認めることと、完成品の採用を無条件に認めることは違う。何を確認できれば実務に進めるのか、誰が承認し、問題が生じた場合に誰が対応するのか。その区切りが明確であれば、職員は試作に取り組みやすくなり、管理側も採否を判断しやすくなる。指針の具体化は、普及の速さと信頼性の両方を左右する。

日本への示唆は「自治体の小さな改善」をどう支えるか

日本の読者にとって、このニュースを韓国の先進事例として眺めるだけではもったいない。自治体の窓口や庁内事務など、担当者だからこそ分かる手間を、どのようにシステム改善につなげるかという課題は、日本にも通じる。比較すべきなのはAIの導入件数だけではなく、現場の提案を形にし、安全に引き継ぐための制度である。

例えば日本の職場で、表計算の集計を詳しい担当者だけが支えている状況を思い浮かべると、今回の論点は理解しやすい。その工夫は仕事を助ける一方、本人しか仕組みを説明できなければ、異動や退職の際に弱点になる。AIでより多くの職員がツールを作れるようになっても、この属人化の問題が自動的に消えるわけではない。

韓国が打ち出した、試作は個人の創意を生かし、実務への適用では組織が責任を負うという考え方は、日本でも検討に値する。導入を考える際には、成果物を点検する担当、保守の予算、引き継ぎの方法を、開発を奨励する施策と同時に用意する必要がある。これは韓国と同じ昇進制度を採るべきだという意味ではなく、人事や運用まで含めて支える発想が参考になるということだ。

日本のIT企業にとっても、職員による開発は、専門家の仕事がすべて不要になる話ではない。一般論として、現場が試作品を用意できれば、必要な機能を具体的に共有しやすくなる一方、本格運用に必要な安全性の検証や既存システムとの接続は別途求められる。開発支援や品質管理をどう組み合わせるかという観点で見るべき動きだ。

ただし、今回の発表には、日本企業への発注、日本市場でのサービス展開、日韓共同事業は示されていない。日本の市場規模や企業収益への直接的な影響を論じる根拠はなく、日本側の制度がこれを受けて変わるとも確認できない。現時点の日本との接点は、行政の現場開発を支える仕組みを比較し、その運用結果から学べる点にある。

管理職の理解と共有の仕組みが、普及を左右する

現場の担当者が新しい道具を使えるようになっても、その仕事を評価する管理職が仕組みを理解していなければ、活用は広がりにくい。行政安全部は、局長・課長級の公務員を対象に、AIリーダーシップ教育を行う。技術を扱う人だけでなく、利用の判断や組織内の調整を担う層にも働きかける構成だ。

管理職に求められるのは、部下と同じ水準でプログラムを書くことだけではない。試作に時間を割く意義を理解し、扱う情報の性質を踏まえ、検証や運用を担当する部署につなぐ判断が必要になる。成果をすぐに求め過ぎれば自由な試行は難しくなり、安全確認を省けば行政への信頼を損ないかねない。

11月には「公共AI大転換チャレンジ大会」を開き、優れた事例を発掘する予定だ。こうした機会は、別々の機関で進む工夫を知る入口になり得る。ただし、大会で評価されることと、幅広い業務で継続利用できることも別である。事例の発掘後に、検証や共有をどう進めるかまで見ていく必要がある。

他機関に成果を広げる場合も、同じツールを配れば終わるとは限らない。名称が似た事務でも、使うデータや手順が異なる場合があるためだ。どの部分を共通化でき、どこを利用先に合わせて変える必要があるか。共有の基盤が、この違いを理解できる情報まで備えるかが、再利用の実効性を左右する。

同時接続6000人、2030年に専門人材2万人を目標

開発を支える利用基盤も拡大する。AI政府実験室の同時接続規模を、現在の約200人から、発表でいう来年には6000人に引き上げる計画だ。さらに2030年までに、自らAIを活用した開発を行い、現場に適用できる専門人材2万人の育成を目指す。

ここでは数字の意味を混同しないことが大切だ。参加者2073人は取り組みに参加している人数であり、同時接続約200人は同じ時間帯に利用できる規模を指す。6000人は利用基盤の拡張計画、2万人は将来の人材育成目標である。すでに6000人が同時利用しているわけでも、2万人の専門人材を確保済みというわけでもない。

利用枠の拡大は、多くの職員が試作できる条件を整える。その一方で、参加者が増えれば、学習支援や問い合わせ対応、成果物の安全確認にも相応の体制が求められる。開発する人を増やす計画と、開発されたものを受け止める組織の能力は、並行して育てる必要がある。

専門人材の育成についても、人数だけでは能力の中身は分からない。コードを作れることに加え、解決すべき業務を見極め、データの扱いを確認し、実際の職場で利用を定着させる力が重要になる。発表が「開発」と「現場適用」を併せて目標にしている点は、その両方が必要だという政策の方向を示している。

次に見るべきは、作った数より使い続けられるか

韓国の今回の方針は、AIモデルそのものの性能競争とは異なるところに力点を置いている。業務を知る人が試し、組織が検証と運用を担い、有効な成果を他機関に広げる。技術の性能を行政の改善へとつなぐために、人事、教育、利用環境、責任分担を組み合わせようとしている。

次の判断材料になるのは、登録された課題のうち、どれだけが実際の業務に採用されたかだ。その先には、処理時間や確認作業がどう変わったか、利用する職員の負担が本当に減ったか、住民の利便性が高まったかという問いがある。これらは現時点で効果が確認された項目ではなく、政策の成果を評価するために必要な視点である。

開発時の手軽さだけで費用対効果を判断することもできない。AIツールの利用料に加え、点検、改修、保守、教育にかかる負担を含めて考える必要がある。他機関が同じ成果を再利用できれば重複作業を減らせる可能性があるが、そのための説明や調整にも仕事が生じる。共有によって得られる効果を確かめるには、こうした運用面の実態が欠かせない。

報奨や評価制度の拡充、指針の整備、接続規模の拡大、人材育成には、これから実行する計画が含まれている。今回の報告を、AIによる行政改革が完成した証拠と見るのは早い。より正確には、現場で始まった試行を、一部の意欲ある職員だけの活動から、組織として続けられる仕事へ変えようとする段階にある。

日本が注目すべきなのも、華やかな試作品の数だけではない。担当者が異動しても使えるか、別の部署が安全に引き継げるか、最終的に住民の手間が減るか。その条件を整えて初めて、公務員をAIの「使い手」から「作り手」へ広げる政策は、行政サービスの改善につながる。韓国の試みは、AIを配ることと、仕事を変えることの間に何が必要なのかを考える材料となる。

Source: Original Korean article - Trendy News Korea

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