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実際に住民が暮らす集合住宅で始まる「電気で暮らす家」への挑戦
韓国のLG電子が、済州島で集合住宅の冷暖房と給湯を電気化する実証事業に乗り出す。単なる研究施設ではなく、住民が実際に暮らしているアパート1棟を対象に、既存の熱源設備をヒートポンプ中心のシステムへ転換する取り組みだ。
今回の舞台となるのは、韓国南部の島・済州特別自治道の西帰浦市孝敦洞にある新効アパート。地上7階、地下1階建てで、12世帯が生活する小規模集合住宅である。韓国では「アパート」という言葉が日本のマンションに近い意味で使われ、都市部を中心に一般的な住宅形態となっている。今回の実証は、こうした韓国人の生活に身近な集合住宅を舞台に、脱炭素化に向けた現実的な住宅モデルを検証する点に特徴がある。
事業にはLG電子のほか、済州特別自治道、済州開発公社、韓国生産技術研究院が参加する。設計は10月までに終える予定で、その後工事を進め、12月の完成を目指す。完成後は実際の運用データを収集し、性能や経済性を検証する段階に入る。
ヒートポンプとP2H技術で冷暖房・給湯を電気化
今回導入される中心技術は、ヒートポンプとP2H(Power to Heat)システムだ。ヒートポンプは空気中の熱を利用して冷暖房や給湯を行う技術で、少ない電力で効率的に熱を移動させることができる。欧州を中心に家庭用暖房の脱炭素化手段として普及が進んでいる。
新効アパートでは、各世帯に設置するヒートポンプが冷房と床暖房を担う。韓国住宅で広く使われてきた床暖房文化は、日本でも知られる韓国独特の住環境の一つで、冬季の快適性を重視する住宅設計と深く結びついている。今回の実証では、この生活スタイルを維持しながら熱源だけを電化できるかが重要な検証ポイントになる。
給湯については、中央方式を採用する。建物1階の空きスペースに空気熱源ヒートポンプと大型給湯タンクを設置し、そこで温めた水を各家庭へ供給する仕組みだ。
またP2Hは、太陽光など再生可能エネルギーによって作られた電気の余剰分を利用し、熱として蓄える技術である。電力需要の調整やエネルギーコスト削減につながる可能性があり、再生可能エネルギー比率を高める社会では重要な技術として注目されている。
韓国の住宅脱炭素化を左右する「既存アパート」への対応
今回の実証で大きな意味を持つのは、新築住宅ではなく既存の集合住宅を対象にしている点だ。韓国では都市部を中心に大量のアパートが建設されてきたが、これらの建物をどのように脱炭素化していくかが今後の課題になっている。
従来型住宅では、ガスボイラーなどを利用した暖房・給湯システムが一般的だった。ヒートポンプによる電化が普及するためには、既存建物の構造や配管、電力設備との適合性を確認する必要がある。
LG電子は2008年からグローバルなヒートポンプ事業に取り組んできた。同社は国内だけでなく、米国アラスカ、ノルウェーのオスロ、中国のハルビンなど寒冷地域でも関連技術の研究を進めている。寒冷地で安定して稼働する技術は、暖房需要が大きい市場で競争力を左右する要素となる。
今回の済州での実証データは、公共賃貸住宅や老朽アパートの改修、新築集合住宅など、異なる住宅環境への展開を検討する際の基礎資料として活用される見込みだ。
日本市場から見た韓国の住宅電化モデルの可能性
日本でも住宅分野の脱炭素化は重要な政策課題となっている。特に家庭部門では、暖房や給湯に伴うエネルギー消費の削減が求められており、ヒートポンプ技術は日本でもすでになじみのある分野だ。代表例として、空気の熱を利用する家庭用給湯機「エコキュート」は多くの家庭で利用されている。
一方、日本と韓国では住宅事情に違いがある。日本では戸建住宅の比率が比較的高い地域も多いのに対し、韓国では都市部を中心に集合住宅が生活基盤となっている。そのため、韓国で進む「集合住宅全体を電化するモデル」は、日本にとってもマンション管理や大規模改修の観点から参考になる可能性がある。
ただし、今回の実証は済州の1棟12世帯を対象とした取り組みであり、日本市場への直接的な影響や普及効果を示すものではない。今後、韓国国内でどの程度の経済性や運用メリットが確認されるかが、海外展開を考える上で重要になる。
またLG電子は日本市場でも家電や空調関連事業を展開しており、住宅向けエネルギー技術の進化は日韓両国の省エネ・脱炭素分野における技術競争や協力の観点から注目される。
企業連携と政策支援が鍵を握る韓国型エネルギー転換
今回のプロジェクトでは、参加機関ごとの役割分担も特徴的だ。LG電子はヒートポンプシステム全体の設計、製品供給、試運転、維持管理、運転データによる性能評価を担当する。
済州特別自治道は制度改善や政策との連携を担い、済州開発公社は実証対象となる建物の提供と運営を担当する。韓国生産技術研究院はP2Hシステム設計やデータ分析を進める。
住宅の電化は、単に新しい機器を設置すれば実現するものではない。電力供給体制、建物設備、住民の生活習慣、コスト負担など複数の要素を調整する必要がある。そのため、企業だけでなく行政や研究機関が参加する実証型プロジェクトが重要になる。
世界的なヒートポンプ競争の中で韓国企業が目指す次の段階
脱炭素社会への移行に伴い、住宅エネルギー分野では「燃料を燃やす」方式から「電気を効率的に利用する」方式への転換が進んでいる。ヒートポンプはその中心技術の一つとして、欧州、北米、アジアで市場拡大が続いている。
韓国では半導体や電池など産業分野で世界市場を意識した競争が進んできたが、住宅エネルギー分野でも国際競争力を高めようとしている。今回の済州での実証は、韓国国内の住宅事情に合わせた電化モデルを作り、将来的な海外展開につなげるための試金石となる。
LG電子ES研究所のオ・セギ所長は、実際の入居者が暮らす集合住宅で、住宅環境に適したヒートポンプ冷暖房・給湯電化モデルを検証する意義を強調し、国内住宅環境の脱炭素電化転換を進める考えを示した。
今後注目されるのは、実証によって得られるデータがどのような成果を示すかだ。快適性、エネルギー効率、費用面で実用性が確認されれば、韓国の集合住宅だけでなく、同じように住宅の省エネ化を進める各国にとって一つの参考モデルになる可能性がある。
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